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オディシャ州の工芸・ドクラ

オディシャ州の工芸品「ドクラ」

オディシャ州の工芸品のひとつに、「ドクラDhokra」と呼ばれる鋳造工芸があります。プリミティブでありながら精巧な印象の神像や動物の置物、オイルランプや皿等の日用品など、その種類もバリエーションも豊か。日本にも1970年代頃から紹介され、ひそかに人気を博してきました。

ドクラという言葉はもともとこの工芸をつくる職能カーストの名称であり、彼らが作る工芸品を同じくドクラと呼んでいます。西ベンガル州からビハール州南部、オディシャ州を経てマディヤ・プラデーシュ州に広がる山間部一帯が、ドクラの生産地です。

ドクラの工芸品は、オディシャ州の先住民・コンド族(諸集団あり)が日常的に使用してきたので、長らく外部に「コンドの工芸品」と紹介されてきました。しかし、コンド族自体は歴史的にも鋳造を行ったことがなく、ドクラの職人たちから生活に必要なものとして提供してもらう発注側の立場でした。ドクラの職人たちはコンドの村を巡りながら、鋳造品の材料となる真鍮屑を集め、その見返りとして、コンド族が求める神像や実用品などに形を変えて渡していたのです。ドクラたちはかつての日本の木地師や炭焼きのような交換経済のノマド集団として存在していましたが、近年は現金収入に対する政府の援助もあり、定住化が進んでいます。


ドクラ画像


ドクラ画像


ドクラ画像


ドクラ画像

ドクラ工芸は、いわゆるロスト・ワックス(失蝋法)と呼ばれる手法で製作されています。まず、作りたい形の粗型を牛糞などを混ぜた粘土で作り、その上に油などを混ぜた蜜蝋を細い糸状に伸ばして巻いていきます。表面の細かな装飾も蜜蝋で仕上げたら、その上からも粘土を塗り重ねて型を完成させたあと、さらにそこに金属片を入れたルツボを作り付けます。ルツボを下にして炉で熱すると、蜜蝋だけが溶けて消失します。そのタイミングで型をひっくり返してルツボを上にすれば、蜜蝋が消えて空洞となった部分に溶けた金属が流れ込みます。水をかけて冷やしてから粘土を割れば、金属だけが残るという仕組みになっています。金属の表面には糸状の蜜蝋の跡が細い線となって現れ、ドクラに独特の美を与えています。


ドクラをつくる村のようす(2016年)

ドクラをつくる村のようす(2016年)

ドクラをつくる村のようす(2016年)

つまり、ロスト・ワックス技法では、蝋(wax)でつくった最初の形は毎回無くなって(lost)しまうため、まったく同じものを再生産するということができません。古くはインダス文明、古代ギリシャやインカ文明、アフリカのイフェ文化などでも行われてきましたが、同じものを作れないという非効率さから、繰り返し使える鋳型技法へととって代わられました。この非常に古典的な技法が、インダス文明の時代(紀元前2500年~)からほとんど作り方を変えずに現代も作り続けられているというのは、インドがなせる奇跡かもしれません。そして近年では、逆に1点ものであるがゆえに、その美術的価値がさらに高まってきています。


蜜蝋をところてんのようにプレスして糸状にする


粘土のベースの上に蜜蝋で形作る(これはジャガンナート神像)


蜜蝋の上にさらに粘土をかぶせる


上の丸い部分がルツボで、必要な量の金属が入っている


ジャガンナート神像の出来上がり

小野雅子が主宰するムドラーファンデーションでは、2016年にドクラをつくる村を数カ所訪れ、彼らの仕事と文化を紹介する書籍・動画を制作しました。動画のショートヴァージョンは、こちらからご覧いただけます。

【映像】LOST into ART: DHOKRA (short)(by MUDRA foundation)